息切れは危険を知らせる身体からのサイン
激しい運動をしたわけではないのに息が切れるようになった。歩くだけで息苦しくなる、階段や坂道で息が荒くなる、こうした息切れは心疾患や肺疾患によって起こることがあります。こうした呼吸の症状は個人差がありますが、以前は特に呼吸を乱さずにできた行動で息切れを起こすようになってきた場合には病気のサインである可能性が高いと言えます。
息切れの評価基準(MRC息切れスケール)
※Grade2以上の症状に該当する場合、医療機関の受診が必要と考えられます。
Grade0
息切れを感じない
Grade1
強い負荷のかかる運動をした際に息切れを感じる
Grade2
平地を早足で歩く、または緩やかな坂を登る時に息切れを感じる
Grade3
平地を歩く時でも同年齢の人より歩くのが遅い、または自分のペースで平地を歩く時に息継ぎの為に休む必要がある
Grade4
約100ヤード歩いた後、または数分間平地を歩いた後、息継ぎの為に休む必要がある
100ヤード=約90m
Grade5
ひどい息切れのため外出が不可能、または衣服の着替えの際に息切れがする
息切れの原因1:心臓
心臓の仕事は全身に血液を送ることです。全身を巡った血が静脈として心臓の右心房に戻り、右心室から肺へと送られ、酸素を血液中に取り込んだ後に左心房に注ぎます。
その後左心室から全身の動脈へと血液を送り、体全体に流します。
この時心臓に病気があると、満足に血液を送り届けることが出来なくなるので、運動時などで酸素の必要量が上がった際に応えられません。
軽い運動でもすぐに脈拍が上がり、呼吸が激しくなります。
結果として息切れを来すことになるのです。心臓の病気で全身に満足に酸素を賄えない状態を心不全と呼びます。
心不全と一言でいってもいろいろありますので、代表的なものを説明します。
心不全
心不全心不全とは疾患の名前ではなく、心筋梗塞や心臓弁膜症などを原因として、全身にさまざまな症状を引き起こす症候群のことを指します。心臓は血液を全身に送り出すためにポンプのような働きをしていますが、心不全ではこの働きが弱まり、全身に必要な血液が行き届かなくなってしまうので、体内の細胞が酸素不足を起こしてしまうのです。
その結果、全身の各器官にうっ血が生じたり、動悸・息切れなどの症状が現れたりします。胃腸や肝臓のうっ血は、吐き気・嘔吐、食欲不振といった胃腸系の症状も引き起こします。胃腸系の症状の原因を明確にするためには、消化器系だけでなく心機能の状態も確認することが必要ということが分かります。
心不全により全身に必要な血液が不足すると、さまざまな全身症状が現れます。特に多いのは、動悸や息切れ、呼吸困難、むくみといった症状です。
坂道や階段を上る時だけでなく、病状が進行するとただ歩くだけでも動悸や息切れを感じやすくなります。また、咳や息苦しさで眠れなくなるというケースもあります。足のむくみも代表的な症状の一つです。
症状の原因としては大きく2つに分けられます。「心臓のポンプ機能が弱まり必要な血液が全身に届かなくなることで生じる症状」と、「心臓から血液を送り出す力が弱まり、心臓後方で血液がうっ滞して生じる症状」です。
ポンプ機能低下によって起こる症状
疲労感・脱力感
心拍出量の低下を原因として、疲れやすい、だるい、動悸がするなどの症状が生じます。
四肢の冷え
身体の末端に血液が届きにくくなり、手足の指先に冷えを感じるようになります。
その他
身体が横になると腎臓へ流れる血液量が増加するため、就寝時に夜間頻尿を起こすことがあります。
血液のうっ滞によって起こる症状
息切れ
肺で血液のうっ滞が生じると、血液中の水分が肺にしみ出ることで息切れを起こしやすくなります。坂道や階段を上る時だけでなく、病状が進行するとただ歩くだけでも息切れを感じやすくなります。
呼吸困難
夜中、就寝時に突然呼吸困難が起きることを発作性夜間呼吸困難といいます。起き上がって椅子に座るような姿勢をとると息が楽になるという場合もあり、これを起坐呼吸といいます。
仰向けになると咳が出やすくなることが多いため、風邪や気管支喘息といったほかの病気と間違えられるケースがよくあります。
むくみ(浮腫)
静脈で血液のうっ滞が起こると、顔や足などの組織に血液中の水分がしみ出し、浮腫(むくみ)となります。指で足のスネあたりを強く押すと、へこんだ痕が残るのが特徴です。1週間で2〜3kg以上の急激な体重増加が生じるケースもあります。
その他
肝臓や腸管でも血液のうっ滞が起こる可能性があり、食欲低下といった症状に繋がります。
弁膜症
心臓は4つの部屋に分かれていて、部屋と部屋の間、部屋と出口の間に合計4つの弁があります。
これらの弁は心臓の拡張と収縮に合わせて開いたり閉じたりすることで、血液が一定の方向に流れていくように調整しています。
これらの弁が加齢やその他の原因で不調を来すのが弁膜症 です。
弁の不調には、「開きが不十分」な狭窄症と、「閉まりが不十分」な閉鎖不全症があります。
前者は血液を送りたいのに出口が狭くて一度に送れる血液が少なくなってしまう病気、後者は血液を送りたいのに、手前の部屋に逆流してしまい、その結果として出口に流れる血流が少なくなってしまう病気と考えてください。
弁膜症による心不全は、健診などの聴診で見つかる場合もあるのですが、息切れで受診される方の中にも多く見受けられます。
年齢のせいにしている息切れはもしかすると弁膜症のせいかもしれません。
虚血性心疾患
心臓には、心臓自体に血液を送る動脈があり、その形から冠動脈と呼ばれます。
運動時などで心臓の働きを増やそうとする際、冠動脈の血流量は大きく増大するのですが、冠動脈に動脈硬化などで狭いところや閉塞しているところがあると、満足に血流を増やせません。
こういった狭心症や心筋梗塞と呼ばれるものをまとめて虚血性心疾患といいます。
症状としては胸痛が代表的ですが、典型的な症状でないものが多い病気としても有名であり、運動時の息切れが最初の症状であることもあります。
冷や汗や吐き気がある場合などはより疑わしくなります。問診や有症状時の心電図が診断に有用ですので、この場合は循環器内科を受診しましょう。
不整脈とは
不整脈とは心臓は電気的な刺激によって、休むことなく規則正しい収縮・拡張のリズムを刻み続けています。不整脈とは、電気的な刺激に異常が発生し、心拍数や鼓動のリズムが不安定になってしまっている状態のことをいいます。
不整脈の中には治療を必要とせず経過観察のみの処置になるケースもありますが、まずはご自身の不整脈のタイプ診断をしてもらうことが大切です。不整脈の患者数は非常に多く、自覚症状がない方でも実は不整脈であることが多くありますので、注意が必要です。
不整脈の種類
不整脈には徐脈(ゆっくり打つタイプ)、頻脈(速く打つタイプ)、期外収縮(リズムが不規則になるタイプ)の3つのタイプがあります。
ゆっくり打つ徐脈
1分間の脈拍が40回以下だと徐脈に該当します。
原因としては、心臓を動かす電気的刺激を作り出す場所に異常が起きて電気が作られなくなる、また電気の通り道の異常により電気が通りにくくなるといったことが挙げられます。
速く打つ頻脈
1分間の脈拍が120回以上だと頻脈に該当します。ただし、運動や興奮などによって発生している場合は異常ではありません。
原因としては、心臓を動かす電気的刺激が作られるペースが異常に早い、または電気の通り道に異常があり空回りしているといったことが挙げられます。
脈がとぶ・抜けるなど不規則に打つ期外収縮
不整脈の中で一番多い症状です。心臓を動かす電気的刺激が、本来なら作り出されない場所から発電されることで、脈がとんだり、余計に多く打ったりするなど、心拍数や鼓動のリズムが不安定になります。
心筋梗塞、心筋症、弁膜症などのリスクを高め、突然死に繋がる可能性もあります。
不整脈の原因
不整脈の原因不整脈の原因として、冠動脈疾患、心臓弁障害、心不全、先天性心疾患など心臓に起因する疾患を発症している可能性があります。また、加齢やストレス、睡眠不足、疲労、自律神経の興奮といった原因も考えられます。
主な不整脈の原因は以下の通りです。
- 過労、蓄積疲労
- ストレス
- 睡眠不足
- 生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病、肥満など)
- カフェインのとり過ぎ
- アルコールのとり過ぎ
- 喫煙
- 熱い風呂
上記のような原因により不規則な電気刺激が発生すると、心臓の動きも不規則になり不整脈となります。
不整脈の症状
不整脈の症状はタイプによって異なります。頻脈の場合はドキドキする・動悸や息切れがあるといった症状、徐脈の場合はフラつく、めまい、意識がなくなる、卒倒や失神するなどの症状、期外収縮の場合は脈がとぶ感じがする、胸周辺に不快感や痛みといった症状です。
ただし、自覚症状がないケースも多いため、検査を受けてはじめて不整脈だと判明することも多いです。
代表的な症状
頻脈
- 動悸や息切れがする。心臓がドキドキする
激しい頻脈の場合、めまいや冷や汗などの症状が現れたり、意識を失ったりすることもあります。
徐脈
- 身体を動かすのが辛く感じる
- 息切れがする
- めまいがする、ふらつく
ひどい場合は、意識がなくなり失神することもあります。
期外収縮
自覚症状はない場合がほとんどです。
時折、胸にぼんやりと不快感がある、胸に痛みを感じるといった症状が現れることがあります。
不整脈の診断方法
安静時12誘導心電図検査
安静時12誘導心電図検査ベッド上に身体を寝かせた状態で、手足と胸の計12箇所に電極を貼り付け、心電図を記録します。
ホルター心電図
ホルター心電図一時的な心電図検査では心臓の異常が分からない可能性があるため、患者様の日常生活の中で24時間心電図を記録します。
心臓の状態がより詳細に分かるため、異常を発見しやすくなります。
心エコー、胸部レントゲン検査
心エコー、胸部レントゲン検査心臓の弁や筋肉の状態を調べることは、不整脈の原因を探るためには重要です。
心エコー検査によって心臓の収縮力、弁の動き、筋肉の厚さ、心房・心室の大きさなどを調べることができれば、不整脈の原因となっている心臓の弁や心筋の病気が分かります。
不整脈の予防・治療
主に抗不整脈薬などを用いた薬物治療を実施し、不整脈を抑えたり脈拍をコントロールしたりできるようにします。
また、場合によってはペースメーカーや植込み型除細動器を用いた外科的治療が必要になることがあります。
徐脈治療(ペースメーカー治療)
徐脈解消のためには、人工ペースメーカーと電線を植え込む治療を行います。
これらの機械により、遅くなってしまった脈を補助する電気刺激を与えることができます。日常生活に支障がないレベルまでの回復を可能にする治療法です。
頻脈治療
まずは主に薬物による治療を実施します。患者様それぞれの病状に合わせて、抗不整脈薬や血液の固まりを溶かす薬などを用います。 ほかにも、高周波カテーテル・アブレーション治療を実施する場合もあります。カテーテルという専用の細い管を足の血管から心臓に通して高周波を流すことで、異常な電気の発生を抑えたり、異常な電気が通るのを防いだりします。
上記のような治療が難しい場合には、ICD(植込み型除細動器)治療も選択肢の一つです。心拍数が基準を上回った時、発生した余計な脈を植込み型除細動器が停止させてくれます。これにより、不整脈による突然死を防ぐことができます。
AED(自動体外式除細動器)について
AED(自動体外式除細動器)について心室細動を起こして倒れた人を電気ショックにより蘇生させる装置です。使い方が分かりやすく図解されているなど、誰でも簡単に使用できるようになっています。
AEDによって救命に成功したケースは報道などでも取り上げられているため、ご存知の方も多いでしょう。最近では多くの施設に設置されています。自治体などでAEDの使い方講習が開かれていることも多いですので、ご自身や身近な人が不整脈をお持ちの場合、一度講習を受けられるのが良いでしょう。
肺の病気による息切れ
肺は酸素を血液に取り込む機能を持っていますから、肺に問題があって血液に十分な酸素を取り込めなくなると酸欠になって息切れを起こします。酸素を取り込む肺胞が破壊される肺気腫、近年増加傾向にある慢性閉塞性肺疾患(COPD)などが息切れを起こしやすい肺疾患です。
息切れが気になったら循環器内科を受診しましょう
加齢など生理的な原因で生じる心配のないものか、治療が必要な疾患によるものかをきちんと調べることで、将来の深刻な発作を防ぐことに役立ちます。
息切れの原因2:呼吸器
肺をはじめとする呼吸器の仕事は、酸素を血液中に取り込むことです。
呼吸器に異常があると血液中に十分な酸素を取り込めないので、全身に酸素を届けることができなくなり、息切れを起こします。
この場合、症状が急に出現しているのか、以前からあるのかで若干アプローチは異なります。
急に出現した息切れでは気管支喘息や肺炎、肺に穴が空いて空気が漏れてしまう気胸などを想定します。
一方で慢性的な息切れの場合はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の頻度が高いです。
COPDは主に過去の喫煙歴を原因として、緩やかに進行する痰の絡んだ咳と息切れが典型的な症状です。
レントゲンなどの画像検査や呼吸機能検査で診断しますので、慢性的な息切れがある方は内科を受診しましょう。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)
毒性のある物質を吸い込むことによっておきる疾患で、以前は慢性肺炎や肺気腫などといっていました。この病気の原因となる毒性物質のうちもっとも考えられるのが、喫煙習慣で、全体の90%を占めるといわれています。
タバコの煙などによって、慢性気管支炎や肺の細胞の弾力がなくなってしまう症状をおこします。長い時間をかけてだんだんとこうした症状がすすみ、咳が続き、息切れをおこします。最終的には呼吸不全に陥ることがあります。
またCOPDの患者様がインフルエンザや風邪などに感染すると、急に悪化することもありますので、注意が必要です。
気管支喘息
気管支喘息では、アレルギーによって気管に炎症が続き、だんだんと気道が狭くなって呼吸がしにくくなります。発作をおこすと、息を吐くときに強く苦しさがでて、ヒューヒューゼエゼエと表現されるように特徴的な喘鳴(ぜんめい)がおこすというような状態を繰り返します。
息切れの原因3:それ以外の疾患
心臓と呼吸器が代表的ですが、それ以外にも息切れをきたす原因はあります。
貧血が最も頻度が高く、一般的な原因ですが、それ以外にも呼吸を司どる筋肉がやられてしまう神経筋疾患などもあります。
また、身体的な異常がなく、特に不安と関連して起こる精神的要因の息切れもよくみられます。